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歯の豆知識

COLUMN

深い虫歯があっても歯髄(神経)を取らずに残せるのか? 歯髄温存療法(VPT)の適応とその治療について

2026年10月20日

前回の歯の豆知識のブログでは『虫歯治療で「歯を削る量」はなぜ重要なのか?できるだけ削る量を抑えて歯を残すための精密虫歯治療!』をお伝えしました。その治療の流れで続く内容として、歯質の保存から歯髄(神経)の保存へとテーマを進めたいと思います。

前回の記事では、虫歯治療において健康な歯質をできるだけ残すことがとても重要で、歯の寿命に大きくか関わることをお伝えしました。

お知り合いで、「この前ものすごく歯が痛くて、歯医者で神経をとった。」というお話しを耳にされたことはないでしょうか?

今回は、虫歯と大きく関わる歯髄(歯の中にある神経)について虫歯がさらに深く進行し、歯の神経(歯髄)に近づいてしまった場合、神経を残すことはできるのかということを中心にお話ししたいと思います。

歯髄の状態によっては、神経を取り除かずに残すことができる、「歯髄温存療法(Vital Pulp Therapy:VPT)」という治療があります。

今回は、歯髄温存療法の特徴やMTAセメントの役割、適応と術式、またその限界についても触れたいと思います。

①なぜ歯髄(歯の神経)を残すことが歯を残すことにつながるのか?

●歯髄が持つ重要な役割

  • 歯髄には神経や血管が存在する
    歯髄は歯の痛みを感じる重要な組織です。虫歯が歯髄まで近づいた時に、冷たいのもでしみるなど、感知してくれるため、歯の防御機構としても残したいのです。
  • 外部刺激の感知や象牙質形成に関与する
    虫歯などが進行した場合に、歯髄は内側から象牙質をつくり、虫歯の進行に抵抗する作用を発動します。
  • 歯髄の生活性を維持する意義
    歯髄を健康な状態で維持することで、感覚受容・防御機構の観点から健康な状態で残すことが望ましいと言えます。

●神経を取ると歯はどうなってしまうのか

まず、神経(歯髄)の除去のため、歯が抜け落ちることはありません。よく、歯髄をとると歯がもろくなってしまうと質問を受けます。その質問は正しいです。

しかし、歯髄をとるまでに至った経緯として、虫歯がとても大きく歯を削る量が多くなると、歯がもろくなってしまっているというのがほとんどです。歯は治療を繰り返すと薄くもなり、破折といって歯が割れる危険性もあります。歯髄を残すことは、虫歯にならないということにも関係しています。

②歯髄温存療法(VPT)とは?MTAセメントの役割を解説

●歯髄温存療法とは?

歯髄の冷たい、温かい、痛いなどの生活反応を維持することを目的とした治療です。

<歯髄温存療法の種類>

①間接覆髄:歯髄が露出せずに、保護できる治療方法
②直接覆髄:治療中に歯髄が露出した場合、歯科材料で露髄面を直接覆う治療方法
③部分断髄:感染した一部の歯髄を除去して、歯科材料で露髄面を覆う治療方法
④歯頸部断髄:感染した歯冠部の歯髄を除去して、歯科材料で露髄面を覆う治療方法、歯根部の歯髄を残すことができる。
⑤選択的う蝕除去:露髄を避けるために、一部う蝕を残した状態で治療を行う方法、一回法と2回法がある。

●MTAセメントとは?

  • MTAの生体親和性
    MTAの生体親和性というのは、歯質や歯髄に対して以外作用がなく用いられる機能を有しています。歯髄への炎症反応が少なく、細胞毒性も低いと言われている。
  • 歯質などの硬組織形成を促す特性をもつ
    歯髄の表面にMTAを用いると歯髄とMTAの間に硬組織の形成を誘導します。
  • MTAは歯髄温存療法の成功を保証する材料ではないこと
    MTAを持ちいれば、必ず歯髄が保存できるわけではありません。臨床症状・レントゲン・マイクロスコープを用いても、最終的に歯髄の炎症がすすみ、歯髄壊死などの症状がでることもあります。

③大きな虫歯でも歯髄を残すことはできるのか?

●歯髄の炎症が比較的軽度な場合

大きな虫歯があっても、歯髄を残せるケースはあります。

  • 自発痛がなかった(安静時になにも症状がない)
  • 冷たいものがしみても数秒で消失する
  • 歯髄検査で反応がある
  • レントゲン所見で根尖(根の先端)に透過像(膿の所見)がないこと
  • 打診・咬合時に痛みがないこと

上記のような症状がなく、複合的な検査で歯髄が残せるのか判断を行います。

●虫歯の除去中に歯髄が露出した場合

治療中に歯髄が露出しても、適切に処置を行えば歯髄を取り除かなくても済むケースがあります。前提としては前述した自発痛などがないことが望ましいです。また、マイクロスコープで露髄した歯髄の表面を観察、また出血の具合を複合的に考慮して、歯髄の温存を術中に判断します。仮に、歯髄が残せる状態でないと判断した場合は、抜髄などの治療へい移行します。以下の写真は歯髄を残したとこきの所見です。

虫歯の除去中に歯髄が露出した場合

●強い痛みがある場合でも歯髄を残せる?

残せる可能性はあります。強い痛みがいつから続いているのか?自発痛はあるのか?大事な検査項目としては打診時の反応の有無など複合的に判断をして歯髄温存可能か判断します。

④歯髄温存療法が難しいケースと治療の限界

<歯髄の感染や炎症が進行している場合>

残念ながら歯髄を温存できないケースはあります。歯髄の検査やレントゲン所見から歯髄を取り除く治療を必要とする場合はあります。露髄した時に歯髄壊死が確認されが場合は、抜髄といて歯髄を取り除く治療へ移行します。

また、断髄を行なっても出血が止まらないなど炎症が強い場合も歯髄温存は難しいといえます。特にマイクロスコープで歯髄を観察した際に、歯髄に透明感や毛細血管が鮮明に見えない場合は歯髄温存療法を適用しないケースが多いです。以下の写真は歯髄壊死の所見写真です。

歯髄の感染や炎症が進行している場合

<歯髄温存療法を行っても歯髄を残せないことがある>

歯髄温存療法を適用する前には術前の歯髄の診査・診断は不可欠です。歯髄の生活反応、レントゲン所見、その歯の痛みの既往を確認して歯髄温存療法を行なっても、術後に痛みが出現して抜髄に至ったケースもあります。術前に検査をしても、完全に歯髄組織状態を確認するのは難しいといます。

そのため、歯髄温存療法を適用する場合は、治療後に抜髄のリスク、将来的に歯髄の生活反応がなくなり、根管治療が必要になる場合があることもご理解の上、治療を受けていただく必要があります。歯髄を残すことだけが重要ではなく、歯髄の状態に応じて治療をすることで、歯を残す治療の選択がとても大切だと考えています。

⑤歯髄温存療法の成功に必要な環境・器具

<ラバーダム防湿による感染管理>

ラバーダム防湿は、感染防御の役割を担います。歯髄温存療法VPTでは、必須です。治療中に歯髄が露出するため、唾液などが入り込むと歯髄に細菌が感染します。清潔な環境で歯髄を保存することが必要です。当院ではラバーダム防湿での処置を行っています。

ラバーダム防湿による感染管理

これで唾液の流入による細菌感染を防いでいます。

<マイクロスコープによる精密な処置>

歯髄温存療法にはマイクロスコープは欠かせまん。拡大視野での治療が歯髄の状態を把握し、また精密な治療を可能としています。

マイクロスコープによる精密な処置

<MTAを用いた適切な歯髄保護および経過観察>

当院での歯髄温存療法はMTAを用います。削った歯の部分は封鎖性や接着性の高い治療を推奨います。治療後も歯髄の状態が正常か、メインテナンス時にレントゲンや歯髄検査を行うことが経過観察のため必要です。歯髄温存治療が終わってからの経過も歯髄が正常に機能しているか確認は重要です。

MTAを用いた適切な歯髄保護および経過観察

⑥歯髄を残すことも重要、歯を残すことが最終的に最も重要

<歯の長期的な保存を考えた治療選択>

ここまでお話ししてきた通り、歯髄には歯の守る防御機構を備えた重要な組織といえます。歯髄温存が可能であるならば、残したい組織です。

東京神楽坂歯科では、天然歯を可能であれば長く残すことをコンセプトに治療をしています。

深い虫歯に対して歯髄を取り除く必要が本当にあるのか?歯質や歯髄の状態を丁寧に検査をし、保存できる可能性がある場合には歯髄温存療法を行います。

しかし、すべての歯で歯髄を残せるわけではありません。歯髄を残すことだけにこだわらず、歯の長期的な保存を考慮した最善の治療方法をご提案したいと考えます。

⑦歯髄温存療法についてよくある質問

Q1. 深い虫歯でも神経を残すことはできますか?
歯髄の状態に応じて、残すことが可能と言えます。

Q2. 歯髄を取ると言われましたが、残せる可能性はありますか?
歯髄の検査・レントゲン所見を複合的に考慮し、残せる可能性を診断します。

Q3. MTAを使用すれば必ず歯髄を残せますか?
必ずではありません。MTAが歯髄を治すわけではなく、術前の診査・診断、治療の環境、術中の精密さがなければ、治療の成功は低くなります。

今回は歯髄温存療法についてご紹介しました。残せる歯髄も、取り除かれるケースは少なくないと感じます。当院では歯髄温存に関して、丁寧に診査し、歯髄を残せるように、またその歯を最終的に残せるような治療方法を提案したいと考えております。歯髄温存治療についてもぜひ当院にご相談ください。また、最後までお読みいただきありがとうございました。今後も皆様に有益な情報を共有できるようにブログを通して発信していきたいとおもっております。

東京神楽坂歯科
院長 菊地英樹

 

 

 

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