
CASE
2026年6月25日
50代女性の方です。5年ほど前に左下第一大臼歯の根管治療及び補綴治療(ジルコニアクラウン治療)を受け、症状はなかったのですが、噛んで違和感があるという主訴に当院を受診されました。
レントゲンを撮影すると歯根周囲を取り囲む透過像を認めました。かなり大きな病変(レントゲンの丸い箇所)があり、歯根にひび割れ(歯根破折)を認めたため、歯を残していくことが難しく患者さんとご相談の上、抜歯方針になりました。
抜歯後の治療の選択肢としてインプラント・ブリッジ・義歯の3つが主として挙げられます。今回の症例においては、幸いにも親知らずが残っていました。そのため親知らずを活かした歯の移植(歯牙移植)を適用できることがレントゲンでわかりました。患者さんは第一大臼歯は残せないことにショックを受けていらっしゃるようでしたが、代わりに親知らずを活用した歯牙移植を適用できること、自分の歯を活かした治療をしたいとい想いから歯牙移植を選択なさいました。
第一大臼歯は口腔外科専門医での抜歯を依頼しました。大きな病変は歯根嚢胞という病変で、悪性のものではありませんでした。

歯牙移植とは、ご自分の歯(主に親知らず)を活用して、なくなってしまった歯の代わり歯を移植し、また噛めるように治療を行う方法です。治療の流れとして今回は以下のような治療計画で歯牙移植を行いました。

①左下第一大臼歯の抜歯(口腔外科専門医へ紹介)
②歯牙移植術
③移植した歯の根管治療
④支台築造・仮歯作製
⑤ジルコニアクラウン治療
①~⑤の流れで治療を開始します。


抜歯後4ヶ月ほど傷口の治りを待ちました。黄色の矢印のように、左下の親知らず(智歯)を利用して、左下第一大臼歯部へ歯牙移植を行います。歯科用CTからも移植する箇所、移植する歯の計測を手術前にしっかりと行なっています。

歯牙移植は以下のような手順で行いました。
①麻酔
②移植する箇所の歯茎の切開
③骨の切削(移植する歯を埋めるためのスペースをつくるため)
④移植する智歯を抜歯
⑤智歯を移植スペースへ埋入して、縫合により固定
⑥抜歯した箇所及び移植した箇所の止血の確認
智歯の歯冠が移植するスペースより大きかったため、一部歯冠を切削して調整してから、縫合して固定をしました。最終的に歯冠形成と言って歯の噛む面を全体的に被せ物(ジルコニア)が入るため、削っておいた状態でも問題はありません。

上の写真は移植直後の写真です。下は移植直後のレントゲンです。

レントゲン所見からはもともとの透過像が大きく、だいぶ骨がない状態に見えます。しかし、移植した智歯はスペースにしっかりと収まっていることがレントゲンからわかります。基本的に移植した歯で安定するまではその歯で噛むことはできません(約1ヶ月)。固いものなどは許可があるまではお控えいただきます。抜糸は約2週間後に行います。歯肉の治癒が進むことで移植した智歯も、移植直後と比べて揺れる範囲が小さくなります。
移植を行なって、安定が得られる約1.5~2ヶ月後に根管治療を開始します。なぜ根管治療が必要になるかというと、抜歯により智歯の中神経が壊死してしまいます。根管治療を行わない場合、根の先端(根尖)に膿を形成してしまう危険性があリます。当院では、お口の中の細菌が根管治療中に歯の中に入り込まないように、ラバーダム防湿(下の右の写真)をこなった状態で根管治療を行い、マイクロスコープを用いて根管治療の精度を高めています。

根管治療においてはラバーダム防湿により細菌及び唾液の侵入の標準的な感染防護により、抜歯をされずに歯を残せることで、有意に歯の生存率が高まるという論文結果もあります。

根管治療後のレントゲン写真です。根管に神経の替わりとなるガッタパーチャが白い筋として見えます。また歯冠部分の内側を根管治療の際に削るため、スペースができます。そのスペースを支台築造といい、高強度のレジン系の歯科材料で固めて、歯冠部分の強化をはかっています。この時点で5か月経過しており、歯根の周りの骨が再生し、患者さんからの物を咀嚼した時の感覚もご自分の歯とほとんど変わらないくとおっしゃていました。以下の写真は移植直後と根管治療終了後の比較レントゲンです。緑の矢印部の骨の再生がわかります。

6か月経過の時点で移植した歯がレントゲンと歯周ポケット検査などからも安定したと判断し、仮歯を最終的な被せ物に置き換える治療へ移行しました。今回はジルコニアクラン治療を行なっております。根管治療の後のジルコニアクラウン治療はとても歯を長期的に残すという観点から、とても有用性の高い治療です。ジルコニアクランにより、根管治療を行なった後に再度細菌が入り込まないように歯とジルコニアクラウンがピッタリと合わさらないといけませません。当院ではジルコニアクラウンを精密に作製してくださる歯科技工士に依頼しております。今回のジルコニアクラウンも歯にピッタリ作製してもらい、また審美的な面からも他の歯と同じように見分けがつかないくらい綺麗に作っていただました。まさに職人の技です。この移植の治療は歯科技工士のサポートがあり、治療の精度を高めることができます。


上の写真が治療前、下の写真が治療後の写真です。ジルコニアクラウンが歯並びに合わせて調和しています。
また治療2年後の経過レントゲンも安定しております。

今回は歯牙移植に加えて、精密根管治療・ジルコニアクラウン治療を全て自由診療で行いました。
個々の症例に応じて治療内容について、治療費用が変動する場合があります。
⚪︎歯牙移植(再診料含む)
115,500円
⚪︎根管治療(CT撮影・根管貼薬代など含む、再診料含む)
170,500円
⚪︎支台築造(再診料含む)
38,500円
⚪︎ジルコニアクラウン治療(仮歯代、型取り代、再診料含む)
187,000円
合計:511,500円
今回は歯牙移植について症例の紹介をしました。歯を移植することに加えて根管治療・補綴治療(ジルコニアクラウンなど)が必要です。治療期間に関しても約6か月ほどかかりますが、ご自分の歯を活用しての治療を行うことができるというのが最大の利点だと考えます。治療を終えお言葉をての感想をお聞きしたところ、「自分の歯のように噛める、違和感もなく治療をしてよかった」との感想をお寄せいただき、私として尽力できて仕事冥利に尽きる想いでした。少しでもご自分の歯でお食事ができること、その治療によって笑顔になっていただけるように今後も努める所存です。
今回の歯牙移植による歯の生存予後については、おおよそ10年前後と言われております。ご年齢、移植する歯の形態、移植する箇所の状態など様々なことが移植の治療に影響します。予後は約10年と言われておりますが、それ未満もしくはそれ以上の年数残っている研究結果もあります。歯の移植によりその歯が長くお口の中に残ってくれるように最大限治療をしますが、将来的に抜け落ちてしまった場合のリスクもご同意いただいた上での治療となります。
日々はを残す治療を行なっている立場として、歯牙移植の治療はご自分の歯を利用して行えるため有用性が高いと考えます。自分の歯を少しでも噛めるように治療をしたい、インプラント治療、入れ歯、ブリッジ治療の代わりの治療をご検討される場合には一度検討していただく余地があるのではないでしょうか。歯牙移植について、少しでも気になっている方がいらっしゃいましたらお気軽に当院にご相談いただけますと幸いです。今回も最後までお読みいただき感謝申し上げます。
東京神楽坂歯科
院長 菊地英樹
« 銀歯に対して、ダイレクトボンド治療及びセラミックインレー治療を行った症例のご紹介です。金属除去(メタルフリー)治療です。